『甘噛みマリアージュ』連載開始記念 梅涼先生 特別インタビュー『甘噛みマリアージュ』連載開始記念 梅涼先生 特別インタビュー

COMIC ROOM BASE
2025年11月27日「コミックルームBASE」のサービス開始と共に『甘噛みマリアージュ』(原作:コミックルーム)の連載をスタートした、梅涼先生へのインタビュー記事。
アトリエでの取材とあって、梅涼先生の素顔に迫る貴重な写真を多数、撮影することができた。
『甘噛みマリアージュ』に懸ける思いも存分に語っていただいたので、梅涼先生を応援している方や本作が気になっている方はぜひ本記事を読んでほしい。
<プロフィール>
梅涼(うめすず)
漫画家。代表作に『あなたは私におとされたい(作画)』全13巻。同作はMBSの「ドラマ特区」枠で実写ドラマ化された。エッセイ漫画『いじられキャラから抜け出したい』でデビュー。2025年、最新作『甘噛みマリアージュ』連載開始。

若き才能・梅涼、その制作現場へ

カッ、カッという、液タブにペンの当たる音が響く。極限の集中によって潜んでいた呼吸音が聞こえてくるほど静寂な空間――ここは前作『あなたは私におとされたい』が大ヒットした漫画家・梅涼先生のアトリエだ。整然と片付けられた机の上に、液晶タブレットとモニターが並ぶ。
▲作画中の梅涼先生。その絵同様にネイルからも美意識が感じられる
彼女は若干18歳にしてデビューし、現在24歳。繊細な心理描写と美しい筆致で支持を集めている。一本の線に宿る感情は、読者を作品世界に引き込む。
本日から、注目の新作『甘噛みマリアージュ』の連載がスタート。『あなたは私におとされたい』に引き続き、原作・編集を手掛けるコミックルームとの再タッグで挑む本作は、吸血鬼との恋と秘められた血をめぐる新たなラブストーリーだ。

『甘噛みマリアージュ』誕生のきっかけ

実写化もした『あなたは私におとされたい』の完結後、コミックルーム編集部から新たに提案したのは、前作とは打って変わってファンタジー作。その時の驚きを、梅涼先生は次のように話す。
「当初は次回作も不倫もののインモラル系の作品を、と聞いていたのでとってもビックリしました。でも、私は昔からファンタジー系のマンガを趣味で描くくらい好きだったので、ワクワクしました。一方で、商業でファンタジー作品を描くのは初めてとあり、不安も半分というところでしょうか。それでも、実際に描き始めると楽しい気持ちがぶわっと湧いてきて。キャラクターの髪型や洋服など、現代もののマンガを描く時にはない楽しさがあるな、と感じています」
▲資料用に購入したというアンティーク調のドレス
▲本棚に大量に置いてあったスケッチブック。中身は……
▲梅涼先生が小学生から中学生の頃に描かれたものとのことだが、すでに完成度が高い。大量のスケッチブックにはデビュー前の漫画がたくさん描かれていて、今の梅涼先生の技術が過去からの積み重ねなのだと改めて感じられる

信頼しているが故の“共作”という意識

『甘噛みマリアージュ』は、梅涼先生とコミックルームが並走する形で生まれた作品だ。原作と作画という線引きを超え、物語を二つの視点から磨き上げる共作体制が取られている。
原作・作画という“分業”と“共作”の違いについて、コミックルーム編集部の編集長・坂本裕次郎は「梅涼先生とは作品を一緒に作り上げているという意識が強いんです。たとえば、6話目では、梅涼先生からのご提案を受けて内容を変更し、ページも増やしました。本来、原作者は作画については口出しせず、作画する先生は原作について口出ししないというケースが多い。いい意味で、踏み込んでくれるんです」と話す。
この件について、梅涼先生は「シナリオのことで『こうしたほうがいいんじゃないか、ということがあれば仰ってください』と坂本さんに言っていただいていました」と振り返る。一方で、坂本はその理由について、「梅涼先生とコミックルーム編集部の信頼関係があってこそ」と言う。
物語の構成や世界観の設定をコミックルームが設計し、梅涼先生がキャラクターに命を吹き込む。シナリオの完成度と感情のリアリティを両立させる、緊密なやり取りが作品を支えている。梅涼先生は、コミックルームの設立当初から作品づくりを共にしてきた作家だ。お互いに意見を言い合える距離感の近さと作品への熱量の高さは、長く作品制作を共にしてきた信頼感から生まれている。
▲アトリエの棚には過去の作品が並ぶ。映像化された『あなたは私におとされたい』も

物語の根底に流れる“力への責任”

『甘噛みマリアージュ』はラブストーリーでもあるが、主人公の持つ“大いなる力”をめぐる物語でもある。
「とある有名な映画に『大いなる力には、大いなる責任が伴う』というセリフがあるのですが、私が初めて『甘噛みマリアージュ』のシナリオを読んだ時に、その作品のことを思い出しました」
強大な力を手にした時に、人はその力をどう使い、何を成し遂げようとするのか。本作の根底には、そんなテーマが流れていると梅涼先生は感じたようだ。
「主人公のセレナは、困っている人がいたら助けずにはいられない優しい心の持ち主です。そんな彼女が強大な力を得て、何をしていくのだろうという成長物語も見どころの一つだと思っています」

作品をリニューアルした理由

『甘噛みマリアージュ』は、元々『噛まれてとろけて恋に堕ちて』という作品名で発表されていた。多くの反響をいただく一方で、「他作品と似ている箇所があるのでは」という指摘が一部から寄せられた。
コミックルーム編集部では、その声を真摯に受け止め、著作権違反などがないかの確認を顧問弁護士に依頼。その結果、権利面に問題がない旨の確認ができたが、読者がより心地よく作品世界に没入できる形に整えることが編集部としての役割だと考え、作品のリニューアルを決意した。以下、コミックルーム編集部の坂本裕次郎編集長からのコメントだ。
「作者と作品にとって、より健全で前向きな環境を整えたいという思いから、作品のリニューアルを決定しました。漫画家のみなさんは日々、多くの時間と情熱を注ぎ、オリジナリティのある作品づくりに取り組まれています。その努力が誤解によって損なわれるのは、望ましいことではありません。ごく一部ではあるのですが、誹謗中傷と呼べる書き込みまでありました。まずは、そういった過激な言葉から離れてもらい、梅涼先生が落ち着いて創作に向き合える環境を整えたい。それが第一の理由でした」
もちろん、作品に対するネガティブな意見を全て否定するということではない、と坂本は語る。実際、読者からの反応を大切にしていることは、それこそリニューアルを断行したことからもうかがえる。作品への指摘については、次のように見解を話す。
「著作権上の問題はありませんが、『気になる』と感じられることで読書体験が損なわれるのは本意ではありません。それならば表現を見直し、より純粋に楽しんでいただける形に整えるのが最善だと判断しました。梅涼先生とも丁寧に話し合い、読者のみなさんのため、作品のためのリニューアルとして前向きに取り組みました。今後も、誠実な作品づくりを通してみなさまに楽しんでいただけるよう努めてまいります」

命と感情を吹き込む作画

そうしてリニューアルされた『甘噛みマリアージュ』の見どころは、感情表現豊かな作画描写だ。感情を宿した目、髪の揺れ、指先の震え――1コマ毎の描写が、読者を深く作品世界に誘(いざな)う。感情を声高に語らず、静かな熱を描くこと。それが『甘噛みマリアージュ』の特徴であり、梅涼先生の筆の魅力だ。
「自分はまだまだ未熟です。それでも、髪の毛の揺れで作中に吹く風を感じてもらえたらいいなとか、魔法を使っている時の躍動感あるポージングでキャラクターの指先に力が入っている様子などを感じてもらえたらうれしいなと思っています」
そんな彼女に、本日公開された第1話で特に注目してもらいたい点を聞いてみたところ、意外な返答が。
「今話した部分もそうなのですが、やはり表情を見ていただけるとうれしいです。特にカレンとニコの邪悪な笑みと、セレナの泣き苦しんでいる顔がお気に入りです」
これから話数を重ねるにあたって、セレナたち登場人物の表情はどんどん豊かになっていく。2話以降の物語やキャラクターの感情描写にも注目してほしい。
「セレナがどんどん成長していくので、ぜひ今後の展開を楽しみにしていただけるとうれしいです! ご声援のほど、よろしくお願いいたします」

編集後記

『甘噛みマリアージュ』は梅涼先生が新たな境地に挑む、意欲作だ。梅涼先生の筆が描く線の一つひとつには、「どうすれば読者により楽しんでもらえるのか」という誠実かつ普遍的な問いが込められている――恋の痛みを知るすべての人に、この物語がやさしく寄り添うことを願って。
▲梅涼先生の愛犬のすずちゃん。もふもふ感と肉球が愛おしい
取材・文=石川裕二(株式会社編まれた糸をほどいて)

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